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仙台高等裁判所 昭和25年(ネ)57号 判決

被控訴人福島県農地委員会が次項記載の買収計画に対する控訴人の訴願につき昭和二十四年三月一日附でした裁決を取消す。

被控訴人梁川町農地委員会が伊達郡梁川町字上町四十四番地所在木造とたん葺平家建建坪五十九坪のうち南側の部分建坪四十三坪についてした買収計画を取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の提出認否援用は、控訴代理人において当審証人阿部竹治郎、阿部喜一郎の各証言当審における検証及び控訴人本人訊問の結果を援用し、被控訴代理人において当審証人堀内フヂ、鹿俣金次、阿部竹治郎、阿部喜一郎の各証言、当審における検証及び控訴人本人訊問の結果を援用したほか、原判決事実及び証拠関係の摘示と同じであるから、ここにこれを引用する。

三、理  由

左記の事実は当事者間に争がない。

一、主文掲記の梁川町字上町四十四番地所在木造とたん葺平家建一棟建坪五十九坪は、もと訴外阿部竹治郎の所有であつたが、昭和二十三年五月控訴人において阿部からこれを買受けその所有権を取得したこと

二、控訴人はかねてから同町字上町五十九番地の実兄霜山泉宅(建坪十九坪)の一部六坪を作業場として六畳一間を居間として借りて、鍛冶屋業を営みかたわら田畑を耕作していたのであるが、右家屋を買受けてから家族と共に同家屋の北側十六坪の部分に移転居住し、移転後も兄泉方の六坪の部分を作業場として鍛冶屋業を営み、兼ねて田一反四畝余、畑二反三畝を耕作し農業を営んでいること

三、本件買収の対象となつた右家屋の南側建坪四十三坪の部分には阿部竹治郎の所有当時からの賃借人堀内フジが数人の子女と居住し、田四反、畑一反一畝十四歩を耕作して農業を営んでいること

四、フヂの耕作に係る右畑一反一畝十四歩のうち三畝十四歩(伊達郡五十沢村字古川百四十四番の三)は訴外八巻長兵衛(同郡富野村在住)の所有で、フヂは同人から賃借していたのであるが、自作農創設特別措置法(以下自創法又は法という)により不在地主所有の小作地として買収せられ、フヂに売渡されたものであること

五、被控訴人梁川町農地委員会(以下町農委という)が、フヂの申請により前記家屋のうち南側四十三坪の部分につき買収計画を立て、昭和二十三年十一月一日これを公告し、控訴人は右買収計画に対して町農委に異議を申立てたが容れられず、更に被控訴人福島県農地委員会(以下県農委という)に訴願したけれども昭和二十四年三月一日棄却の裁決があり同年四月一日控訴人にその通知があつたこと

以上の事実はすべて当事者間に争のないところである。

本件家屋買収計画当時の自創法第十五条の規定は昭和二十四年六月二十日法律第二一五号第八条により改正せられ買収の要件が改正前の規定に比べ明確化されたけれども、その根本趣旨においては改正の前後により異るものではない。よつて以下堀内フヂのした本件家屋買収申請が同条にいう相当と認め得る場合にあたるかどうかの点について判断する。

堀内フヂの耕作している田四反、畑一反一畝十四歩のうち今度の農地改革で売渡を受けた前記五十沢村字古川の畑三畝十四歩以外の分は従前からの自作地であることは当審証人堀内フヂの証言により明らかであり、原審証人八巻長兵衛、原審及び当審証人堀内フヂの各証言によると右五十沢村字古川の畑三畝十四歩は昭和二十二年末頃フヂの亡夫久治郎が地主の八巻長兵衛から賃借したもので、本件家屋からは徒歩で約二、三十分を要する距離にあり、フヂ方では右畑を野菜畑として使用し従来供出の対象地とはなつていなかつた事実が認められる。

次に成立に争のない甲第一号証、原審及び当審における検証の結果、前記証人堀内フヂ、当審証人阿部竹治郎、鹿俣金次の各証言を綜合すれば、本件家屋は梁川町市街部の北部を東西に走る県道に面して存する商店向に建てられたもので附近一帯に人家が立並び商店街を形成していること、堀内フヂの亡夫久治郎は昭和四年頃本件家屋を当時の所有者阿部清七から賃借し、薪炭商又は蚕物商を営んでいたが支那事変後企業整備のために農業に転換し昭和二十三年九月久治郎の死亡後は妻フヂにおいて引続き農業に従事し本件家屋を住居又は物置に使用すると共に軒下の土間兼通路を農業上の作業場又は農具置場等に使用しているが、現に農業に従事しているものはフヂとその長男であつて二男は東北ドツク株式会社に工員として働いていたが昭和二十五年九月警察予備隊に入隊し、三女は中学校教員を奉職し、その他の一男二女は通学中であること、本件家屋の附近には農を業とするものも若干ないことはないけれども、これらも多くは戦時中企業整備のために転業したもので附近一帯は商家が多く本件家屋もその位置環境構造等の点からみて農業用家屋としては決して適当と認め難いこと、以上の事実が認められ、右の認定を妨げるに足る証拠はない。

元来自創法第十五条第一項第二号による宅地又は建物の買収は、その宅地又は建物が買収請求者に売渡さるべき農地との間にどのような関連性をもつ場合に許されるものと解すべきかについては解釈上論議の存するところである。当該自作農となるべき者に売渡さるべき農地に附随し主としてその農地の用に供せられているようなもの例えば売渡される農地の附近に存するその農地耕作用の肥料又は農器具等を格納するための建物又はその敷地などのように、その農地と密接不可離の関係にある建物又は宅地が附帯買収の対象となるべきことは殆んど異論のないところであると同時に売渡される農地と何等の関連をもたない宅地又は建物が附帯買収の対象とならないことも多く疑を容れない。

問題は本件の場合のように農地の売渡を受けるべき者が居住して農耕の用に供している建物又はその敷地について存するのである。おもうに自創法第十五条がいわゆる附帯買収を規定した所以のものはいうまでもなく今次の農地改革によつて自作農となるべき者、即ち同法第三条の規定により買収する農地、もしくは第十六条第一項の命令で定める農地につき自作農となるべき者のために、営農上の利便を増しその基盤を強固にして農村の民主化を図ると共に農業生産力の増強に寄与せんとするに外ならないところからみて、第十五条第一項第二号による宅地又は建物の買収についても、その宅地又は建物が当該自作農となるべき者に売渡される農地に附随しこれと密接不可離の関係にあることを要するとまでしかく厳格に解すべきではなく、地理的には売渡さるべき農地と多少離れていても、主として売渡さるべき農地の利用に供せられ、且これに必要な宅地又は建物であれば買収の対象となり得るものと解するのが相当である。しかし法第三条の規定により買収する農地、もしくは法第十六条第一項の命令で定める農地の売渡を受けるべき者であつても、その売渡さるべき農地がその者の農業経営の全体からみて極めて僅少な部分に過ぎずして農業経営の大半が従前からの自作地又は小作地に依存しているような場合には、その者の居住し農耕の用に供している建物又は宅地は主として売渡さるべき農地の利用に供しているものとはいえず、むしろかゝる者は実質的には法第十五条にいわゆる「自作農となるべき者」にあたらないともみられ得るのであるからして右のような場合は宅地又は建物の買収請求を相当と認め得ない場合にあたるものと解すべきである。けだし僅かな農地の売渡を受ける関係にあるからといつて、その農地に附随する宅地又は建物なら格別これに附属しない宅地又は建物までも附帯して買収し得るものとすることは、いわゆる附帯買収を認めた法第十五条の趣意にそわないものというべきであり、このことは今次の農地改革によつて自作農となるべき者のためにのみ法第十五条による附帯買収を認め、従前からの自作農又は小作農については同条のような規定の存しないところからみても容易に肯き得るところである。

ところで本件買収計画の対象となつた建物は、前認定のとおり堀内フヂの居住する梁川町所在の家屋であつて、同人に売渡された前示五十沢村の畑とは徒歩約二、三十分を要する距離にあり、両者の間に従属的関係のないことは明らかであり、また堀内フヂの売渡を受けた農地は、前認定のように僅かに野菜畑として使用してきた畑三畝十四歩だけであつて、同人の耕作農地の全体(田畑合計五反一畝十四歩)からみて一小部分に過ぎず、本件家屋が主として右売渡された畑の利用に供せられているものとは到底考えられない。されば堀内フヂの本件家屋の買収請求は前段説明の理由により相当と認め得ないものというべきである。

のみならず本件家屋はその位置、環境、構造の点からみても農家として適当であると認め難いことは前述のとおりであるからして、この点からみても本件買収計画は違法とせざるを得ない。

以上の次第であるから、本件買収計画は爾余の争点について判断するまでもなく違法として取消すべきであり従つて控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容すべきである。右と所見を異にする原判決は失当で本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条、第九三条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 猪狩真泰)

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